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石影武者人生と日陰体質石

えー、みなさんが知っている範囲の中で、
「実力の割には、イマイチ報われない人」って、いませんか?
まぁ、それにはいろんな事情があるわけですが、
よーく考えてみると、そういう人って、いますよね。

鉱物の中にも、そんな運命をたどった石があります。 ここでは、
「影武者人生」的な石「日陰体質」的な石の代表を、
それぞれピックアップ!してみました。

(ちなみに、その基準は私の独断と偏見です)
こんな石もあるんだな〜なんて、知って頂けたら幸いです。


まずは「影武者人生」的な石代表の、
『ジルコン(zircon)』

ジルコンには、黄色や茶色、青、緑など、様々な色のものがありますが、
無色透明なものは、かつて、ビクトリア王朝時代に、
ダイヤモンドの代用品として、人々の人気を集めていました。

それまでは、ダイヤを初め、ルビー、サファイアなど、
宝石はごく1部の支配階級の人しか持つことが出来ず、
一般庶民には、とても手に届かない品物でした。
ところが、産業革命以降、豊かな中流階級の人が出現し、
人々の生活と、宝石に対する意識が変化します。
とはいえ、やっぱりダイヤなど高価な宝石には手が出ず、
注目されたのは、魅力がある上、手軽に手に入る宝石でした。
ダイヤモンドに次ぐ、高い屈折率を持つ故の、その輝きと、
世界中至る所で見つかる為、手軽に手に入るジルコンは、
人々にとって、正に都合の良い「代用品」でした。

ちなみにその後、代用品としてもっと手軽な別の石が見つかり、
ジルコンの利用価値は、以前程なくなりました

もともとが、
ダイヤの代用品として見出され、
ダイヤの影武者のような存在だった石。
ジルコンは、その役割を終えた時に、
「宝石としての価値」も、なくなってしまったのです。


次に、「日陰体質」的な石代表、
『尖晶石(せんしょうせき) スピネル(spinel)』の話です。

まず、宝石に興味ある人でも、
この石に関して「知っている」という人は、あまりいないでしょう。
(ジルコンもそうだと思うけど…)

スピネルには無色、赤、緑、黒など、様々な色の石がありますが、
特に赤いものは、ルビーそっくりの色合いで、
硬さや比重等、石としての性格も、ルビーより少し劣るだけ。
その上、ルビーと同じような場所で取れる為、18世紀後半になるまで、
それは
ルビーの一種だと思われていました
特にヨーロッパでは、スピネルとルビーが
違う鉱物だとは、なかなか認識されず、
ルビーとして勘違いされたまま、英国王室やロシア王室の
王冠を飾る、主要な宝石に使用されていたのです。

その後、やっとルビーとは別の鉱物だと認識されましたが、
色や産地で違う名称が付いていたり、
そもそも産地が限られ、取れる量が圧倒的に少なかったりで、
一般には、その存在すら認識されませんでした。

現在、ようやく産地は増えましたが、
それでも、ルビーの10分の1程度の産出量でしょうか。
ダイヤなどの一流の宝石と比べても、硬さ、色合い、珍しさといった、
宝石としての条件は、申し分ないハズなのに、
最初の勘違いが素で、表舞台に出るチャンスを失った宝石…。
今でも、スピネルの市場価値は低いままで、
これから先も、上がる可能性はなさそうです。


…さて、こうして2つの石の話を並べてみましたが、
どちらも、
メジャーな宝石と同じくらいの魅力があった故の結果
という所が、なんとも皮肉な話ですね。
宝石としては、ありふれていたり、硬さが足りなかったりで、
価値がワンランク落ちたとしても、
その石の魅力で、一般に流通している方が、
はるかに幸せなことなのだと、実感します。


ところで、最後にちょっと救われる話
宝石としては報われなかったジルコンですが、
現在、
工業用として、かかせない鉱物になっています。
(詳しくは、個々の石のページを見て下さいね)
影武者的な宝石として有名になるより、
裏方でも、石本来の力を発揮している方が、
魅力的ですよね。


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